今年は60冊少々しか読めなかったらしい。公私とも苦しい年だった。

夢の国から目覚めても 宮田眞砂

ラブストーリー部門はこれでしょう。いやしかしポラリスが降り注ぐ夜もよかった……。よかった……。

推し、燃ゆ 宇佐見りん

これもよかった。心情の描写がすばらしい。

なめらかな世界と、その敵 伴名練

SFはこれ。作品ごとの舞台装置の立て方(?)から登場人物のキャラクターからなにからとてもよくできていた。よかった。

Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち

個々の技術を身につけて課題に挑むのは当然として、技術者は組織として継続的にビジネスに貢献する必要がある。すると過去の実装に向き合う必要が出てくるし、それを乗り越えないといけない。これに正面から向き合って超えていく組織の戦いが書かれている熱い本だった。

並行プログラミング入門 ―Rust、C、アセンブリによる実装からのアプローチ 高野祐輝

並行プログラミングを理解・運用するためには広汎な分野の知識が必要となる。つまり難しい。 同期処理(排他等)、非同期処理(Rustのasync/await等)、マルチタスク(コンテキストスイッチ、スケジューリング等)、並行計算モデルといった、並行プログラミングに必要な知識がこの本にはコンパクトにまとまっている。こういった書籍はあまり見かけないと思うので、並行プログラミングに携わるなら読んで損はない良い本だと思う。 並行処理を実装するにあたり、本質的に難しいポイントを(少なくとも読む前よりは)意識できるようになった。

六人の嘘つきな大学生 浅倉秋成

悩んだがミステリはこれ。良かった。

しかしこの他にも良かったミステリは多数あり今年は当たり年だったと思う。大名作の続編である「invert 城塚翡翠倒叙集」「ヨルガオ殺人事件」も前作に負けず劣らず良かったし、同志少女(後述)も広義のミステリといえる。「大鞠家殺人事件」も実に雰囲気のある名作だった。「三秒間の死角」が霞むくらいの良い年だった。

連鎖 新装版 真保裕一

新装版が出ていたので買って、エモが暴走して即座に再読。これを最初に読んだのは20年くらい前か?真保裕一の作品を初めて読んだのが母から借りたホワイトアウトで、そのあと片っ端から読んだのを思い出す。

劇中の小道具にはさすがに時代を感じるが(さすがにいまCOCOMと言っても通じないだろう……)、真保裕一らしい鮮やかな大風呂敷のたたみ方はいつ何度読んでも素晴らしい。

夜と霧――ドイツ強制収容所の体験記録 V.E.フランクル

歴史系はこれ。医師であった筆者がナチスの収容所で過ごした記録。主観と客観の混じる独特の視点で書かれている無二の本。筆者の知性と強さに涙を禁じ得ない。

あえて旧訳を選んでみたが、正解だったかどうかはよくわからない。

あのころなにしてた? 綿矢りさ

コロナ禍のエッセイ。

私もこの時代に感じたことを記録しようと思って折に触れてブログを書いていたのだが、そのようなものは全く不要であった。綿矢りさがその感性をもって書いてくれていたのだから。

総合一位: 同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬

そして結局今年の一冊はなんなのかと問われれば、答えはこれだ。

独ソ戦を舞台に狙撃兵になる少女の話で、仲間とともに仇敵を探して戦争を生き延びる姿が描かれている。圧倒的なディテールとストーリー展開、キャラクター造形。ただただすばらしい。

個人的にこのあたりの歴史の本をいくつか読んでいたのもあり、時代背景の解像度が高い状態で読めたのもよかったと思うが、それを差し引いても希に見る名作だ。

Kindleで読んで圧倒されたので、紙でも買った。この待遇は2018年の蜜蜂と遠雷以来である。

以上。

振り返って思ったが、今年は名作に恵まれた年だったな。全体的にはつらいことも多かったが、良い本にたくさん出会えたのは喜ばしい。