岐阜県の関市では例年刃物まつりというイベントが行われている。包丁が安く買えるという話を聞いたので行ってきた。例年といっても例のコロナの影響で、通常開催は5年ぶりとのこと。

下調べ

おそらくTwitterで見かけたのだと思うが、刃物まつりに行くと包丁が安いという話を聞きつけて調べてみた。曰く、愛用のUX10, 440を作っているミソノの規格外品がえらい安く買えるとのこと。公式のページを見ると刃物大廉売市と書いてあり、メインストリートに各メーカーが出店するらしい。ミソノの名前もある(たぶん。後述)。行ってきた人のブログを調べていると、3000円~5000円くらいでミソノの440や炭素鋼の規格外品が買えるとかなんとか。信じられない安さである。このほか、包丁研ぎサービスなどもあるらしい(もっと言えばステージで出し物やたくさんの出店もあるようだが割愛する)。

ミソノの440は、ペティ12cmを使っているが、刃が薄くて使いやすい良い包丁という印象。柔らかいので刃がへたるのも少し早いが、そのぶん研ぎやすい。メインの牛刀以外のラインナップをコスパ良く埋めるのには最適だ。

買う理由も用意できたとはいえ、さすがにこのためだけに岐阜まで行くというのはちょっとコストが高すぎるので、前後で郡上八幡と犬山の観光を入れて1泊の旅行にすることにした(旅行部分は別途記事になると思われる)。これで包丁の購入部分のコストは実質0である。

刃物まつりの会場は長良川鉄道の関駅あたりから少し歩いたところ。長良川鉄道は1時間に1本くらいしかないローカル線である(Suica等は使えないがVisaタッチで乗れて便利だった)が、それ以外は特に心配することはない。行って買えばいいだけである。

ところが、旅行を手配してから改めて刃物まつりのページを見ていると、出展者のところにミソノの名前がなくなっていた。こうなると本当に最初からあったのか自信がなくなってくるが、とにかく今ないことだけははっきりしている。まじかよと思いつつミソノのWebページを見ると、しれっと情報が出ていた。

ミソノ刃物のページ。端に以下の文言が小さく書いてある。 お知らせ 2023年10月7日(土)~8日(日)に開催される「関市刃物まつり」において、弊社は本町通りにはブースを出店しません。 本社工場の敷地内にて販売を行います。場所はこのページのアクセス地図をご覧下さい。 皆様のお越しをお待ちいたしております。

いやこれ気づくやつおらんやろ。

古風なメーカーなので各種SNSでの広報もやっておらず、マジで情報がない。Twitterで言及している人も全くいない。大丈夫なのかこれは。何時から始めるのかもまったくわからん。そもそもなんでメイン会場に出さないのかもわからん(大人の事情か?)。

ともあれ行くしかない。場所を調べると、関の駅から山の方?に数km離れたところである。辛うじて関下有知(せきしもうち)駅から歩いて行けそう(2km)なので、歩いて行ってみることにした。結論から言うと歩いて行くべきではなかった。

行ってみる

前夜は郡上八幡に投宿していたので、上りの長良川鉄道で関下有知駅へ向かう。早朝ということもあり電車(電車ではない)が少なく、9時頃に到着する電車の次は11時頃になる。いくら開始時間がわからないといっても11時着では遅すぎると思ったので、前者にした。

関下有知駅というのは本当に何もなく、プラットフォームと屋根、自販機が1台あるだけのところである。

駅から走り去る1両の気動車

電車が走り去る。

踏切から線路の方を見た様子。単線の線路がまっすぐ森の中に延びている

振り返ると駅が小さすぎてまたビビる。

駅の遠景。田んぼの向こうに小さいプラットフォームが少し見える

田んぼの間の道を歩いて行く。

田んぼの間の道。舗装されているが歩道やガードレールはない

歩いて行くと工業団地に出るが、木が茂っているので工場も見えない。単に道が立派な森の中を歩いているだけである。なんなら古墳もある。

砂行(すぎょう)一号古墳という古墳が説明されている看板

古墳自体は入れるよう整備されているわけでもなかったので見られなかったが、小高い丘のようになっていた。さらに歩いていくと、ミソノの工場が見えてくる。社名の書かれたのぼりが立っているが、遠目には包丁を売っているようには全く見えない。駅からだいたい30分かかった。

ミソノ刃物の本社工場遠景。黄色い3階建ての社屋と駐車場。手前に青色の社名入りののぼりが立っている

正面に回ると門が開いていて、建屋の大きな扉も開いていた。

ミソノ本社正面。入り口が開いている。

近寄っていくと会社の方がいたので包丁の販売をやっているか訪ねたところ、「やってます、ミソノの商品だけですが……」と控えめなお返事をいただいた。いやミソノだけやっててくれれば十分ですよ。

逆にどうやって来たんですかと聞かれたので、駅から歩いてきたと答えたらたいそう驚いておられた。当たり前だが他の客はみな車(タクシー含む)で来ていた様子であった。

購入

中に入ると長机が5,6個並んでいて、包丁が無造作に箱に入れられて売られていた。「規格外良品」とのことで、化粧箱などはなく紙でくるんだ状態で並んでいる。他の客は3人くらいしかいなかった。むしろよく3人も来たな。9時半くらいに到着したが、すでに販売は始まっていた。9時(あるいはもっと前?)から販売開始していたと思われる。

ミソノのステンレス包丁のラインナップは上からUX10, 440, (無印)モリブデンの3種であるが、前情報通りUX10はここには出ていない。440(PH含む)とモリブデンが出ていた。目当てにしていた440がたくさんあったので大興奮である。ちなみに、この会場では「モリブデン鋼」と表記されて、440と(無印)モリブデンの包丁がいっしょくたに売られていた気がする。たぶん値段も同じ。刃を包んでいる紙をそっと抜いてモデルを確認する必要がある。鋲の数でもわかる(けど長さにもよる)が。「プロ用」と書かれているものもあったがその基準はよくわからなかった。

まずは一番欲しかった440のペティ15cmを確保。440のペティはあまり本数がなかったので、遅く来ていたら買えなかったかもしれない。なんとこれが2500円であった。正規品をAmazonで買うと10000円近くするので引くほど安い。状態の悪いメルカリの出品より安い。

440はこのほか、牛刀、筋引、骨スキ、中華包丁などがあった。牛刀は間に合っているし、中華包丁と骨スキは何に使ったらいいかわからん。中華包丁は一瞬迷ったがえらい重いし、安いと言っても5000円以上はする。さすがに買わない。

ということで筋引を買った。その場に長さの表示はなく24cmだと思い込んで買ったのだが、家に帰って確認したら27cmあった。牛刀代わりに普通の料理に使っている人もいるらしいと聞いていたのでそれもいいかなと思っていたのだが、27cmではさすがに長すぎるだろう。刺身を引くのによさそうだし、片刃気味に研ぐとしよう。この27cm筋引が5500円である。これもAmazonで見ると2万円近くする。

さらにカーボン鋼(ハガネ。要するに錆びるやつ)も売っていた。こちらは三徳と牛刀。錆びる包丁なんて使ってられるかよと思いつつ、切れ味がすごいという話だけはよく聞くので興味はあり、こちらも1本買ってしまった。こちらは3500円。この値段だと実験的な買い物もしやすい。(これも)その場では18cmと書いてあったような気がしたのだが、帰宅してみると21cmであった。半日で成長したのかもしれない。こちらは21cmがいちばん取り回しがよいので、ラッキーではある(そもそも聞けば丁寧に教えてくれるので、聞けばよいのであるがこちとらコミュ障なのである)。

お金を払うと、それぞれ鞘のようにした厚紙にくるんでテープで留めて、紙袋に入れて口をとめてくれる。さすがにむき出しで持ち帰られると困るということだろう。メイン会場に出店しないのは大人の事情かとも思ったが、もらった手提げ袋は刃物まつりの公式?のもののようである。

かくして、計11500円で3本の包丁を手に入れたのであった。

包丁が3本並んでいる。上から、440 筋引 27cm(細身の長い包丁)、特別鍛造 21cm(普通の牛刀)、440 ペティ 15cm(小型の包丁)

離脱

タクシーでミソノの工場に来た人がいたので、下ろして帰るタクシーを捕まえようと運転手に話しかけてみたものの私が会話の流れで「大丈夫です(それでも別に構いません)」と言ったら断りだと思ったらしく走り去ってしまった。まあなんか普通に面倒だから乗せたくなかった感はあったが。

仕方がないのでどう控えめに言っても山の中の工場を出て、メイン会場へ歩く。距離は3kmほどである。

車道、並木、歩道、田んぼ、山。すごく遠くにビルが見える

上の写真の、奥に見えるビルのむこうに見える丘(を貫通するトンネル)の向こうがメイン会場である。普通に疲れてきたあたりで着いた。

祭りの会場。大きな交差点にテントが並んでいる

すごい人出である。これだけ人がいるのにミソノの工場には片手で数えられるくらいしか人がいないのは逆にすごい(広報が)。まあ不要なB級品をさばいているだけなので別に人が来なくても構わないのだろうが。もしメイン会場に出店していたら人がたくさん来て、もっと早く品物がなくなってしまっただろう。過去のブログなどを見ると大人気だったと書いてあったし。そういう意味ではラッキーだった。疲れたが。

せっかくなので他の店もちょっと見てみたが、まず混んでいてじっくり見ることができない。そしてほとんどの店はいつもよりすこし安くして売っている(最大でも半額くらいが多かった印象)くらいの感じなので、B級品を売ってるミソノにコスパでかなう店はなさそうな感じだった。ので、メイン会場では何も買わずに終了した。普通に8Aの包丁を1万円出して買うならその半額以下の440にしたらいいんじゃないかな……と思いながら会場を後にした。

たまたませきてらす前の駅に行ったら美濃太田行きの列車がきたので、それで離脱。ありがとう刃物まつり。

振り返り

買い物結果には大満足であるが、ミソノの工場に歩いて行ったのは完全に失敗だった。

とはいえ代替案はあまりない。

関や美濃太田にはレンタカー屋があるので、あらかじめ手配しておけば朝いって車を借りることはできた。のだが、車だと関から往復で数分だし、そのために借りるのもなあ……と思って借りなかったのであった。別案としては前日から1泊で借りて、郡上八幡への往復もすべてレンタカーにするという手もあった。ただ長距離だと運転が面倒だし、車だと本が読めない。よってこれは避けたい。

関駅ではレンタサイクルをしているらしいが、これは台数が限られているようだったのでなかなか計画に組み込むのはむずかしい。外したら余計に歩くことになる。

あとはタクシーで、これが一番現実的だったと思われる。関かどこかの駅に迎車を手配して、それで行くべきだった。次回があればそうしようと思うが、さすがに1年後にまた包丁を買い足すつもりになっていることはないと思う。

感想

帰って一度ずつ使ってみた。

15cmペティは期待通り、やる気が出ないときの料理をこれ1本でやるには最高。筋引はマジで長いので普通の料理には使いづらいが、柵を買ってきて刺身にするにはめちゃくちゃやりやすかった。これくらいの長さは必要なんだなあ。そしてハガネの牛刀であるが、意味わからんくらい切れる。コバルトスペシャルより切れる。これははまる人がいるのもわかるな。少し時間に余裕があるときはこれで料理すると気分が上がってよさそうだ。

ということで、総じて期待通りであった。